肺点のダイエット効果

「肥満の鍼治療‐有効性及びその作用機序についての検討 全鍼灸誌31巻1号」より
福岡大スポーツ科学部 向野義人先生の論文(原稿)

肥満者50人に対し、二週間の皮内鍼による耳鍼治療をし:
①実験前後の体重を比較する
②二週間を通じて摂食量、満腹度、空腹感を比較する(摂食量が減るほど、空腹感が減るほど、満腹感が強まるほど得点が高くなるように設問設定した。例えば摂食量が実験前に比べて半分以下になったときは3点、全く変わらない場合を0点、逆に増えた場合を-1点などというように。つまり摂食制限に効果がありそうなほど数字は大きくなるということ。この三種類の点数は合計され、摂食抑制係数とする)
③実験前後の血糖・遊離脂肪酸・インスリン・ガストリン・セクレチンを調べて比較する

方法
実験対象群を次の二つに分ける。
  • 肺点刺激群(迷走神経支配区にある。所謂ダイエット点)
  • 神門刺激群(迷走神経非支配区。ダイエットと直接関係無い点。つまりプラセボ)

各点電探で取穴し、皮内鍼を置鍼。一週間目に交換。

結果 
①体重(平均) 実験開始時 一週間後 二週間後    増減 
肺点群        69.2kg     68.7kg    67.9kg   1.3kg減
神門群        68.8kg     68.7kg    68.3kg   0.5kg減



②食欲抑制  著効 有効 やや有効 無効 悪化
肺点群     8人  6人   1人   9人  0人
神門群     2人  2人   5人  14人  1人
※神門群で体重が2キロ以上減少した人は食欲抑制での点が高くなかった。つまり自発的に我慢していたかもしれないということ。
食欲抑制が著効・有効の人で二キロ以上体重が減ったのは肺点群5人、神門群0人だった。少なくとも肺点群の24人中5人は、食欲抑制を自覚した上、2キロ以上の体重減を果たしたことになる。

③ 血中グルコース 遊離脂肪酸 インスリン ガストリン   セクレチン
肺点 84.0→82.7  0.42→0.46  9.8→7.9  63.5→68.6 73.1→73.0
神門 83.1→83.2  0.46→0.46  9.4→9.8  74.1→74.9 70.4→74.6
※肺点群のインスリン値減少以外はすべて有意な変化なし。肺点群で食欲抑制点数が低かった人にも体重減少が少なかった人にもインスリン値の減少は見られたので、摂食量・体重が減ったからインスリン値が減少したわけではない。つまり耳鍼肺点刺激そのものが作用している、ということ。 インスリンの減少は脂肪合成低下・分解促進を意味するので、肺点に脂肪の代謝亢進の作用があるかもしれない。

結論
耳の肺点への皮内鍼置鍼により:

  • 体重が減る
  • 満腹感が亢進・空腹感が減少・摂食量が減る
  • 血中インスリン値が減る(摂食量・体重減関係なく)

そして神門には以上の効果が無いということ。
(注)論文中の水負荷ガストリン変化量は省略しました。詳しくは原稿をご覧下さい。

解説 

 実験対象者の平均は身長157cm、69kgくらいです。肺点はいわずと知れた元祖ダイエット点、神門は中医耳鍼独特の耳穴ですが、効果としては鎮静、鎮痛、消炎作用など幅広く、後にノジェ派の一部も使っています。これがなぜダイエットに使われるようになったかは分かりませんが、良くある説明では「イライラを防ぐ」となっています。いずれにせよ単穴ではダイエット効果なしとみなして比較するプラセボとして用いています。

  1. 食欲抑制で有効以上、体重二キロ以上減の人数は肺点群5人、神門群0人でした。
  2. 食欲抑制でやや有効以上、体重一キロ以上減は、肺点群12人、神門群5人でした。
  3. 体重が変化しない、または逆に増えたのは、肺点群8人、神門群15人でした。

 耳鍼ダイエット効果が食欲抑制であるとすれば、食欲抑制感と体重減が同時に生じるはずです。であれば、肺点群の12/25人と神門群の5/25人はこれ(上の2番)に当たります。ダイエット効果として二週間一キロ減はまあ効果があるとできる線ですので(計算上、三ヶ月で六キロ減)、成功とすれば50%に少し届かない成果といえるのではないでしょうか。もちろんこの先に痩せにくくなるかもしれないことは考えられますが。

 向野先生は他の研究で肺点のダイエット効果が出ないケースの特定をしています。それが上の3番に当たるのですが、三割に及ぶ人に効かないのであれば事前に耳鍼ダイエットが効かない患者さんを特定して、その患者さんには他の方法を薦めるなどのケアが必要になります。この耳鍼ダイエットが効かないケースに関しては耳鍼ダイエット研究の初期から言われていたのですが、あまり取り上げられてこなかったようです。