良くある質問と回答

耳鍼はなぜ効くのですか?
 耳の中にはほぼ全身の部位・臓器・器官に対応する特異的な点(又は区域)があります。その耳点と臓器・器官、脳の三つには神経による連絡があります。耳のある点を刺激することにより、その点が対応する臓器・器官に対し、ある種の生理的作用、鎮痛、血流量の増減などを生じさせることが出来ます。その結果ある種の症状を改善、治癒させることが出来るのです。「耳鍼について」などもご覧下さい。

耳鍼は痛いですか?
 痛いか痛くないかといえば・・・多少痛いです。でも我慢できないほどの痛みではありません。耳鍼では毫鍼という普通に体に刺す鍼、円皮鍼または皮内鍼というとても小さな鍼、金属粒や植物の種、レーザー照射などを用いることが多いです。レーザーは常に有効ではないのですが、鍼はいつも効きます。鍼はいったん刺してしまえば置いておいてもパルスをかけても痛くはありません。鍼がよっぽど恐くて嫌だという方以外は、基本的に鍼(+パルス)をお勧めしています。効果が高いからです。

鍼の感染症の心配があると聞きました。金属粒の方がいいのでしょうか?
 感染症の恐れは鍼を使う以上、必ず心配しなければならない問題です。そのため鍼灸師は、どのような事をすると感染症を起こすかとか、起きないようにするにはどうすればよいか等を知っています。最近はディスポーサブル鍼が易く普及し、以前のように使いまわしによる感染の恐れは減りました。皮内鍼を使いまわすこともあまりないと思います。それでも感染症の恐れが完全にないわけではないのですが、病気の関係で抵抗力が落ちている場合、鍼をしないなどの判断も出来ます。鍼灸師は西洋医学の勉強も一通りしているので、西洋医学的常識も知っています。そして多くの鍼灸師が感染症を防いで治療しています。
 金属粒は確かに安全です。私も耳甲介(耳のあなのすぐ外側)のような血流量の少ない所には金属粒ではなく種をよく使います。もし感染症を起こすと治りにくい部位だからです。ですが一般には鍼を使います。比べてみると効果が高いからです。

耳鍼には副作用はありますか?
 あります。頭痛がしたり気分が悪くなったりすることがあります。これは耳鍼による刺激が交感・もしくは副交感神経に作用するからです。鍼を用いた場合、頭痛や不快感であれば刺鍼後数分~十数分で表われます。このときには起きてしまった作用の逆の作用を起こす耳点や体鍼を用いればすぐに回復します。鍼灸師はこういう対応の仕方も知っています。こういった副作用はすぐに出易いので、殆どは治療中に起き、見過ごすことはあまりありません。
 またこのような副作用は金属粒でも起こる可能性があります。粒はもともと効果が低いので副作用も出にくいのですが、粒の貼り付けは持続した刺激なので、治療室から出て帰宅してから起こることもあります。また金属粒を長期間貼り付けた場合や、自分で強く刺激し続けた場合、かぶれたり皮膚を傷つけたりすることがあります。その為粒交換、もしくは取り外しの日数を指定して守ってもらいます。
 「副作用が無いので安全」とは思えません。副作用があるのが分かっていて、それを防ぐ方法、対処する方法を知っている施術者にやってもらうべきでしょう。耳ツボサロンの施術者にそれが出来るとは思えません。


耳ツボダイエットを試したいです。良いサロンの見分け方を教えてください。

  1. 耳ツボなり耳鍼を使う以上、効くタイプと効かないタイプがあります。まずそれを説明できる所にしてもらってください。効かないタイプなのに長々と続けるのは意味がありません。
  2. ダイエットに食事・運動・生活習慣の指導は必須になります。これをきちんと説明できる所にして下さい。
  3. 「サプリメントを飲まないと痩せない」といっているところ、もしくは勧めるところはやめましょう。耳ツボが効くのであればサプリメントは必要ないからです。痩せるサプリメントは自分で気に入ったものを試したほうがいいでしょう。
  4. ダイエットは治療の要素が含まれることが多くあります。例えばあなたが水分代謝が悪く、むくんでいるような場合、それを改善する必要があります。これは治療に含まれるので、治療が出来るところにおねがいすべきでしょう。体のむくみが改善せずに体重だけ減らすというのはあまり考えられません。
  5. 耳を刺激する以上、気分が悪くなったり頭が痛くなるなどの副作用が起きる可能性があります。それに対処できることにして下さい。基本的な医学教育を受けた施術者が必要です。

 以上の点を考えると、最低でも鍼灸師による治療が一番だと思います。耳鍼サロンの成功している所の多くが、サプリメント販売の収益によっています。耳に粒を張るだけではあまり高い料金を取れないからです。プロポリス・アロエべラ・プロテインの組み合わせを勧められたら気を付けてください。これらは某ネットワークビジネスの主力商品で、しかも痩せる要素はありません。鍼灸師や接骨院での耳鍼ないし耳ツボは、もともと他の治療で収益はありますからムキになってサプリメントを売ることもないと思います。鍼灸院でわざわざ耳ツボダイエット専門でやっている所もあまりないでしょうから、サプリメントを売りつけて悪評立てるのは嫌がると思います。一回2~3千円、鍼灸院で他の治療のついてであればタダとか数百円~千円追加とかでやってくれます。(詳しくは「耳ツボダイエットについて」を参照)

「食事制限なしで痩せられる」は本当ですか?

 耳鍼のダイエット効果は:

  1. イライラ改善によるやけ食い防止
  2. 満腹感が早まり空腹感が減る、そして食事量が減る
  3. 血中インスリン低下その他による脂肪沈着抑制

 以上三つの結果で体重が減らせるというものです。中でもはっきりしているのは1です。3の脂肪代謝促進という効果は報告されていますが、よくわかりません。2の摂食抑制は研究結果がでています。私は耳鍼効果=摂食量減の占める割合が大きい、とくに病的ではないけど異常な食欲(やけ食いとか)を抑制すると思います。ただし食事の制限の意志があって初めて摂取カロリーの減少、そして体重減につながります。したがって食事制限なしで痩せられません。ただし同じ食事量で消費カロリーを増やせば体重は減ります。


どんな症状が耳鍼に効きますか?
 およそ痛みに関するものの殆どに効きます。ダイエットなどよりもよっぽど効きます。例えば耳鍼療法で古くから豊富にある臨床報告は坐骨神経痛です。その鎮痛効果の高さから、耳鍼は鍼麻酔のときに重要な役割を果たすほどです。体鍼でどうにもなりそうに無い痛みにも効くことがあります。一時的な麻酔効果しか出ないときもありますが。
 日本で耳鍼のみで治療院をしている所は知らないのですが、ネットでアメリカ・カナダの耳鍼専門治療院を見てみると、次のような適応疾患があります。
  1. あらゆる種類の疼痛治療
  2. 骨関節炎・リウマチ
  3. 高血圧症・低血圧症
  4. アレルギー疾患
  5. 肥満・禁煙・禁酒・麻薬中毒
  6. 各種消化器疾患
  7. 不妊症・月経困難症・更年期障害
  8. 鬱、不安感、不眠症その他精神疾患

などです。このうち1、2、4、6、7は私もなるほどなと思える効果を感じています。逆に効果の全く感じられなかったのが眩暈、耳鳴り、喘息です。5に関してはアメリカならではですが、日本では肥満くらいしか機会がなさそうです。断酒・麻薬中毒の治療は専門機関との連携(もしくは専門機関そのものが耳鍼を使う)が必要ですが、日本にはその連携が無いからです。またアメリカには鍼による麻薬中毒治療の協会があり、耳鍼による治療の規定(NADA規定)があり、それに沿って治療します。

 日本の鍼灸院レベルで最も活用できそうなのが鎮痛効果です。体鍼で痛みが取れきれないときや、違和感が残るときなど、耳鍼をするとすっかりなくなってしまうことがあります。次に効果がありそうなのはアレルギーなどの痒み抑制かもしれません。こちらは疼痛抑制より難しいです。痒みの方が痛みよりそのメカニズムが複雑です。私自身の臨床結果もまだ良くありませんが、効くときはしっかり効いてくれます。それ以外は体鍼も併用しているのでよくわかりません。効果がその場で出ないとどちらが効いているのか判断しにくいです。痛みでしたらその場で変化無かったら効いていないと思っています。

 アメリカ・ドイツ(と多分フランス)には、医師が経営する耳鍼専門らしき治療院があります。日本の場合鍼灸治療院に来る患者さんの全てが疼痛に苦しんでくるわけではなく、「コリ」や「なんとなく疲れ」を訴えて来る方も多いです。そういう方々が耳鍼でスッキリ満足、というのはなかなか想像しがたく、やはり患部にズーンという響きがないと満足しないという方も多いのではないでしょうか。それを考えるとよっぽど痛みを持つ患者さんが毎日くるような治療院でないと、耳鍼専門というのはなかなか難しそうですね。腰痛とか良く効くのですが。

臨床例のページも参照してください。

耳鍼の効果は結局「鍼麻酔」なのではないですか?それでは治療として不十分では?

 その通り。私もそう思っていました。でもノジェの著書のなかではっとするようなことがあり、それ以来疼痛治療に対する考えが変わりました。

 ノジェは耳垂にある大脳皮質前頭葉の点に関して、「慢性疼痛は脳の前頭葉のどこかにある記憶細胞に貯蔵されているので、痛む局所の治療だけではある種の痛みが残って感じる。だから耳垂を探索すべきだ」といっています。私はこの「痛みの記憶」という考えではっとしました。

 ある部分が痛むと感じるのはなぜでしょう?脳がそのように認識しているからです。脳に接続している無数の神経の末端部で、何らかの痛み刺激を受け取るからです。鍼灸師であれば、遠隔取穴で痛みがすっかり取れてしまうというケースは当たり前のように認識しています。私はこの現象を脳神経学的に考えると、何らかの神経的作用で知覚神経回路を介しての反応が疼痛部位に働いて、痛みという知覚だけでなくその原因も改善した、と見ています。麻酔効果だけでは説明がつかないほど治ってしまうことが多いからです。鍼麻酔程度の効果しかないときもありますが、そういうときは、動かしたらまだ痛いとか、翌日また痛み出しすということになります。このときは痛みの原因をとる方法を考え直さなくてはなりません。当然組織破壊のあるようなときは鍼麻酔程度しか効きません。まあ、鍼麻酔程度といっても毎回きっちりと効かせられたらたいしたものだと思います。何しろ痛みが取れてしまうのですから。

 慢性疼痛の場合、その痛みゆえに血流障害、機能障害、果ては睡眠や精神状態にも影響を与えます。慢性疼痛と急性疼痛の苦痛が根本的に違うのは、前者の場合は負の連鎖が症状をより複雑にしているからです。その治療はこの連鎖を断ち切ることが必要です。疼痛除去はその役に立ちます。

 かといって原因を追求する必要はもちろんあります。しかし私は疼痛や不快感をとった後、治癒に必要な休息・安静が守られれば多くの病気は治ると思っています。逆に鍼灸や耳鍼はその程度の効果だとも言えますが、極僅かな外科的浸潤と刺激で薬物投与や根治できない外科手術にも勝る鎮痛効果があるのですから立派なものです。

ノジェによる耳鍼と中国の耳鍼ではどちらが優れていますか?

 どちらともいえません。というより個人的にはあまり変わらないと思っています。ノジェ派の場合、ノジェ反射(ACR)やノジェ頻度、レーザーパルス照射を用いると、治療・診断の幅はとんでもなく広がります。しかし現在の所私はそこまで駆使していません。ノジェの段階理論といって、病気の進行度合いにより三種の異なった耳点配置がありますが、まだその内の一つ、有名な「逆さま胎児」の段階しか活用していません。(臨床の九割がこれだとしているので残りのふたつは稀ということです)これは中医派の耳穴図とほぼ一緒です。

 中医派とノジェ派の耳の反射図(耳穴図)は運動器に関してはほぼ同じですので、私がよく使う範囲ではあまり違いがありません。その他鎮痒とか精神安定とか機能性の点(穴)に関しては中医派の耳穴は豊富です。逆に多いのでどうも戸惑いがちで、あれもこれもと考えると穴数がどんどん増えていきます。また中医派は耳穴にも注意理論を取り入れているので、筋肉上に現れた痛みの場合に肝点を加えるなどの配穴があったりします。こういうことはノジェ派にはありません。ノジェ派は中医派に比べややシンプルです。ただしノジェ派といっても弟子の人たちは中医派も取り入れたり、どんどん新しい耳点をみつけて発表しているようなので、耳点(穴)に関して言えば次第に共通点が増えていくかもしれません。

 そもそも電探を使っていると、指定されている場所から大分離れた所に反応点が現れるのはしょっちゅうです。ですので耳穴図や耳点図はあくまでも目安と思ってます。

 今のところ私が読んだ耳鍼関係の本はノジェ派5冊、中医派3冊ですが、中国語で出ている中医耳鍼関係の本は膨大です。禁煙の耳鍼に関してだけで一冊本が出てしまうくらいです。研究層の厚さで言えば中国が一番ですから今後も増えると思います。中国留学した方をうらやましいなぁと思うのはこういうときです。ちなみに「耳穴診断学」は中国書ですが、辞書さえあれば大体読めます。書いてあることも想像できますし。

 ノジェ派の耳鍼が既に完成しつつあった70~80年代、アメリカで耳鍼が盛んに研究された時期は、ペインコントロールやら神経生理学に関する研究熱も高かった時期ですが、今はかつてほどではないと思いますので今後の発展具合は分かりません。ですので私は、中国はせっかくノジェの耳鍼を真似たのだからいっそのことノジェ反射や段階理論も取り入れてしまってどんどん研究を進めてくれればいいのにと思っています。

 私のノジェ派に関する記述が多いのは、特に中国が嫌いだとかノジェが大好きだということではなくて、しっかりと説明しているのはノジェ派の資料に多いからです。日本語で読んだ中医派の本と、どうにか読んだ「耳穴診断学」にはあまり理論的なことに触れていませんでした。とはいえ中医派の膨大な文献にまだ着手していないのでこれからやっていこうと思います。何分中国語で読むのに時間がかかるもので。

結論:研究者でなく一鍼灸師としての私には両者ともあまり変わらない。元が同じなので。ということになりました。