鍼と粒どっちが良い?用具の説明

 耳鍼療法で持ちいる刺激方法は、毫鍼、円皮鍼、皮内鍼、鍼+パルス、パルスのみ、金属粒、種、軟膏、レーザー、灸、指・爪・楊枝などの圧刺激が考えられます。中医耳鍼の本には薬液注射などありますが、鍼灸師は扱えないので対象外とします。通常、真っ先に用いられるのは鍼か粒です。両者の利点と欠点を考察します。また鍼・粒以外の刺激方法に関しても紹介します。


毫鍼
 耳鍼療法において最も一般的につかわれています。私はディスポの和鍼5番で短い物が使いやすいと思います。これ以上細くても、患者さんの感じる痛みはあまり変わらないと思いますし、これ以上太いと痛いです。1番や3番の細い鍼は、対耳輪に沿って横刺するときに用いたことがあります。中国鍼の短い鍼も使いやすいです。

 素材にこだわりたいときには金鍼を補・銀鍼を瀉と考えます。ステン鍼は中性扱いです。右耳のある点に金鍼で補の刺激をしたいけど銀鍼しか使いたくないときは、左耳の同じ点に銀鍼を刺せば同じ効果が出るそうです。これは初期ノジェ派の考えです。金銀の違いはそもそも間中善雄先生のイオンパンピング論から出ていますが、ノジェ派の後継者の一部はこの考えを今も用いています。R.ノジェによる最新の著書にはその違いは明記していません。私自身は金銀の違いを試したことはなく、ステン鍼のみです。この金銀の違いはパルスの電極にも関係します。補は金又は+、瀉は銀又は-です。

 和鍼の竜頭は圧診するのにちょうどいいです。鍼管を使えば切皮痛を減らせますが、先に鍼管を置いてから鍼を落とす管鍼法では、針先がちょっとずれただけで良導点がずれてしまうような耳鍼の世界では精度が落ちます。なので針先を少し出した状態で、正確に取穴した一点に軽く針先を当て、それがずれないように鍼管をかぶせるという方法で行います。もしくは鍼管なしで切皮します。慣れてくると痛がらせずにできるものです。鍼は軟骨組織に達するまで刺入します。手を離して鍼がだらんと傾くようでは駄目です。痛いので捻転などはせず、置鍼したりパルスをかけます。
 気を付けなければならないのが感染症対策です。次のような手順で行います。

  1. 施術者自身の手洗い、手指消毒

  2. 患者さんの耳(以降、患耳とする)をアルコールで裏表ふき取る。

  3. 圧診又は電探を行う。

  4. 再びアルコール綿花で刺鍼部周辺を消毒

  5. さらにヨードで刺鍼部周辺を消毒

  6. 乾燥の後、刺鍼

治療を通して、患耳に患者さんの髪の毛がかかったりしないよう、大型のヘアピンを用いる等します。抜鍼の後、再びアルコールでヨードをふき取り、その後乾燥するまで触れないようにします。



円皮鍼・皮内鍼

 長期置鍼に用います。円皮鍼は直刺できますが、皮内鍼は横刺しか出来ません。ですので通常は円皮鍼を使います。皮内鍼は耳甲介が薄く、円皮鍼では深すぎると思うときに使います。セイリンから滅菌されたテープつきの円皮鍼が出ていますが、耳鍼に使うにはテープが大きすぎて不向きです。また前述したとおり圧診・電探を入念に行うと、特に限定された一点が見つかるのですが、そこに的中させるにはまず円皮鍼をピンセットで刺入したのちにテープで固定します。消毒方法は上述の通りです。夏場は3日、冬場でも5日したら交換します。基本的に施術者が抜鍼し、かぶれや炎症、化膿が起きていないか確認し、消毒します。患者さん自らとってしまった場合や、自然に取れてしまった場合には直ちに水道水とマキロンなどの消毒液で洗浄し、異常がないか見るよう指導します。耳介の感染症は一度起きると治癒が遅く、大変なことになりかねませんので徹底させます。ですので次回の治療が暫く先になるようなケースのときは用いないこともあります。

パルス 

 普通の体鍼用のものを使います。電極は補の刺激をプラス、瀉の刺激をマイナスとする考えがあります。簡単に一点のみ刺激するならば、手にもつ電極をプラス、鍼につなぐ電極をマイナスにすればよいと思います。逆にすると耳に感じる刺激が弱くなります。周波数は2~3Hzくらいで充分です。圧刺激、鍼と比べると、このパルスが1番効果があります。また患部に刺入した鍼にプラス電極をつなぎ、マイナス電極をつないだ金属探索棒で耳点をパルス刺激する電鍼体耳療法という方法もあります。



 金属粒あるいは種子を用います。金属粒には金、銀、チタン等があります。この素材の違いによる考えもイオンパンピング説からだと思います。イオン的に干渉させたくないときはガラス粒を使えばよいということです。チタンはピップエレキバンに用いられている素材ですが、これが耳介刺激にどのような影響があるかどうかは不明です。あと、金粒の安いものは粗悪なメッキです。

 私は金属よりも種子を用いています。金属粒を貼り付け、自己マッサージを強くしすぎて耳甲介を傷つけた患者さんがいましたが、変わりに種子を用いて以来、そういったことがなくなりました。素材として強いのと、かぶれる人がいるからです。種は王不留行が有名ですが、これだと小さすぎるので様々な種を試しました。私がよく用いているのは米を2つに割ったものです。王不留行よりも刺激量が大きくてちょうどいいと思っています。

鍼と粒どちらが良いのか

 効果からいえば 鍼+パルス>皮内鍼>粒です。パルスの効果は幾つかの実験結果で際立っています。ちなみに粒刺激による研究は見当たりません。比較した実験が無いので私の経験からです。ちなみに皮内鍼+磁石という方法がありますが、試したことがありません。趙敏行先生は磁石の効果は強いと言っています。

 安全面からいえば粒でしょう。耳介の感染症は一度起こすと治癒が遅く、抗生物質による治療が必要になるかもしれません。それが起きないように消毒の手順は徹底しなければなりません。私自身、耳介鍼刺激により感染症を起こしたことはありませんが、おそらく毫鍼より皮内鍼の方が危険だと思います。置鍼している数日のうちに、入浴や患者さんが触るなどして刺鍼部が汚染されることが考えられるからです。ですので私は次回の治療が5日以上先になるときは皮内鍼を入れません。また抜鍼も私が必ずします。耳甲介などの血管分布が少ない所で炎症を起こしていれば皮膚科に行ってもらう等する必要があるかもしれません。毫鍼に関しては刺鍼から抜鍼の間、衛生環境が保たれるので心配はありません。金属粒を用いた場合、必ずしも安心とはいえません。特にダイエット希望の患者さんで、熱心に粒を刺激し続けた結果、粒の当たっている皮膚が破け、出血した方がいました。幸い感染症は起こさず治癒したのですが、その後金属粒は使わなくなりました。

軟膏など

 中医耳鍼で用いられる方法です。耳穴を三稜鍼などで傷つけ、そこに刺激性の生薬を塗りテープで保護します。塗る生薬は中医耳鍼の本により様々ですが、ニンニク、胡椒、生姜などの刺激物を混ぜたものを使います。感染症が恐いので耳甲介の薄い所には使えなそうです。治療室でニンニクペーストをいじるのが嫌なので試したことがありません。また本によると北里研究所の間中善雄先生は経皮麻酔薬のザイロカインを耳介に塗るという方法を用いていました。

 粒の項でもいいましたが、以前王不留行では小さくて効果が少ないのではないかと思っていたとき、この中医耳鍼の生薬塗布を読んで、胡椒粒を使おうかと思い立ちました。しかし胡椒では大きすぎてテープで止めるには不向きです。何か他の種はないかと思案していたとき、ふとある事を思い出しました。

  以前ハバネロという一番辛い唐辛子を使って料理をしたとき、それに触れた指と爪のすき間が痛み出したのです。それはもう刺すような痛みでした。それを思い出して生理学の本を開くと、唐辛子の辛み成分カプサイシンは痛覚受容体のうちのポリモーダル受容器で感受し、C繊維により伝達されるとありました。つまり鍼刺激の伝達と同じ経路なのです。であればカプサイシンを貼り付ければ鍼と類似の刺激が得られるのではと思いつきました。この唐辛子種効果についてはまた別個報告します。

レーザー照射

 レーザーを試してみようという方は少ないと思いますが、効果的な治療法の一つです。私はアトピーのかゆみの改善で効果が確認できました。R.ノジェは疼痛治療や圧診により検出された耳点には鍼、電探で得られた耳点にはレーザーが適するとしています。R.ノジェのサイトを見ると、イタリアのMicropad社のレーザーが紹介されています。この価格が十万円くらいです。私は当初、レーザーの効果をあまり期待していなかったのですが、試してみたいとは思っていました。しかしその為に十万円を出す気にはならなかったので、医療用レーザーのしくみを調べてみました。

 レーザーはDVDなどにも用いられ、様々な用途があるのですが、基本的に2つの要素で区別されます。出力(W)と波長(nm)です。出力の強いものにはレーザーメスなど、焼ききる為のものもあります。FDA(アメリカ食品医薬品局)ガイドラインにあるクラスⅢ、コールドレーザーと呼ばれる5mW以下のものならば、照射しても熱は発生せずに組織を損傷することがありません。またレーザー鍼治療に用いられている機器の多くは波長632nmのものです。そしてLED治療機で635nmのものを見つけました。幾つか種類があるのですが、そのうちの一つを通販で5千円前後で購入しました。十万円くらいのものを試す前に、安いものでレーザー照射の効果を試して見るといいと思います。会議室などで使うレーザーポインタは、波長が700nmなどなので使えません。

 私は鍼師なのでついつい鍼を使ってしまいますが、ノジェ派ではなかり重要視しています。

指、爪、楊枝など

 ノジェ派も中医派も、手指による触診を重要視しています。また患者本人による耳按摩もしくはマッサージにより、持続的な効果を出そうとしています。私も様々な人の耳を触ってみて分かったのですが、対耳輪上が堅くなっている人は頭痛、肩痛、背中の痛み、腰痛などが対耳輪状に硬さとなって表われています。そしてその硬くなっているところを押すととても痛がります。ある人の耳の硬さを見つけたとき、なんとなくほぐしてみたら肩が楽になってきたということもあります。このように圧診の最初に耳全体を触診して体質ならぬ耳質を把握することは重要だと思います。そして次回に比較するのです。

 対耳珠から対耳輪、つまり頭蓋骨から頚椎、胸椎、腰椎と、対耳輪上に投影された椎体一つ一つを探るように爪で押して行きます。耳介上においても神経学的な病理現象は通用するので、例えば腕の痛みの場合、上腕点や肘点を診ると同時に頚椎区も合わせて探るべきです。痛みの原因が頚椎にあることが多いからです。主に母指の爪が活躍します。

 耳鍼療法用品の店で圧診用ガラス棒を売っていますが爪楊枝で充分です。楊枝の頭の方で広い範囲の圧痛点を探り、より敏感な点を楊枝の先端で探ります。私はディスポーサブル圧診棒と呼んでいます。ノジェ派は100gと250gの圧力調節したスプリング内臓の圧診棒を使いますが、周囲との比較を行えばよいので必ずしも必要はないと思います。